日本・フィリピン合作映画で両国に横たわる光と影を考える

 11月30日まで東京・代官山のシアターギルドで『日比(ニッピ)の影裏3部作』と題して日本・フィリピン合作短編3本の上映が行われています。

 プロデューサーは寺島しのぶ主演『オー・ルーシー!』(2017)の元となった短編版『Oh Lucy! 』(2014)や初の日本・チリ合作映画『GREEN GRASS〜生まれかわる命〜』(2022)を手がけた曽我満寿美さん。


                                  @sonoda__masumi

日比合作映画の企画は2013年の人材育成事業タレンツ・キャンパス・トーキョー(現:タレンツ・トーキョー)に参加していたフィリピン出身のジャヌス・ビクトリア監督との出会いから。その時、ヴィクトリア監督がプレゼンテーションし、タレント・キャンパス・トーキョー・アワード2013を受賞した『Kodokushi-Escape to Summer-』に魅せられ、以後、様々な企画マーケットに参加したり、公的機関からの助成支援も受けるなどして長編映画実現のために奔走してきました。タイトル通り、日本の孤独死問題がテーマです。

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 今回上映された短編『Encounters with Silent 沈黙との出会い』(2017)は、長編版に至るまでに制作されたドキュメンタリーです。フィリピンでは起こり得ないという孤独死に衝撃を受けたビクトリア監督は、特殊清掃業者や写真家・郡山総一郎氏に密着。その生々しい映像の数々は、日本人の私たちでもショッキングです。



 さらにビクトリア監督は、日本とフィリピンの間で長らく横たわるJapan-Filipino Children、いわゆる混血児問題をテーマに短編『Raised in water 水の中で育てられた子どもたち』(2022)を制作しました。主演は、日本を代表するバイプレーヤー古舘寛治さんです。

 Japan-Fillpino Children。通称JFC。

 1980年代。バブル時代の日本には、フィリピンから数多くの女性たちが出稼ぎに来ました。彼女たちは”ジャパゆきさん”と呼ばれました。逆に女性目当てに渡航する日本人男性もおり、その結果JFCが生まれたものの、帰国した日本人男性は責任を負わずに逃避。そんな例も多く、社会問題になっていたこともあり数多くの映像作品にもなりました。

 それも遥か昔の話かと思っていたら、特定非営利活動法人JFCネットワークによると、今もフィリピンに日本人の父親に捨てられた子どもが10万人も存在するそうです。

 今回は日本で暮らすJFCのアユミさんにインタビューした短編『Stories Living Japan &The Chilippines Ayumi's Story』も上映されました。監督はフィリピンにルーツを持つ長谷川大知さんで、

彼の初ドキュメンタリー作品です。

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 曽我さん曰く、この3本の上映には裏ストーリーがあるそうで

”JFCを見捨てた日本人男性が歳を経て、日本の家族にも見捨てられて孤独死する”。

 因果応報ですね。

 この日は会場に大学生になったアユミさんが、学校の友達を連れて来場していました。



上映後に観客も交えてのトークも行われ、その友人もマイクを握りました。彼女は、アユミさんのバックボーンと想像もしていなかった苦労を知り、上手く言葉にできないほどの衝撃を受けたそうです。誘った方のアユミさんも勇気が必要だったことでしょう。でもきっと、彼女ならば受け止めてくれるはずという信頼あってこそだったのだと思います。2人の友情がさらに深まることを願いながら、心から拍手を贈りました。

 ほかにもフィリピンにルーツを持つ方々が多数参加されていて、筆者も思わぬ交流の輪を広げることができました。

 長編『Kodokushi-Escape to Summer-』は現在製作中で、来年完成予定だそうです。きっと大きな話題を呼ぶこと間違いナシ。その前に、この短編3本で日本とフィリピンの歴史と今を予習することをオススメ。何より、世界を股にかけて活躍する曽我さんの奮闘を見守りましょう。


 ちなみに会場のシアターギルドは、ヘッドフォンで映画鑑賞する新しいスタイルの劇場です。

 ワンドリンク制で、筆者の好きなアイラ島の皆様も揃っておりましたよ。


追記:フィリピンといえば、三池崇史監督『天国から来た男たち』(2000)のロケ取材でマニラに行きました。

 現役の刑務所や精神病院でも撮影を行った、当時のリアルなフィリピンが映っています。

その刑務所でのロケのことです。主演の吉川晃司さんが現場に到着すると、ドライバーが「手を振っている人がいるけど、あなたは刑務所に友人がいるのですか?」と尋ねてきたそうです。手を振っていたのは、三池監督でした。

  ドライバーに罪はありません。


中山治美の”世界中でかき捨てた恥を回収す”

映画ジャーナリストの中山治美です。 1991年に初の海外旅行でケニアを旅して以来、仕事やプライベートで随分とあちこち旅してきました。 でも齢50歳を超えて体力的に限界が……。 そろそろ終活⁉︎と思い、 記録に残すことにしました。 2024年4月からは下記で更新。 https://ameblo.jp/haruminakayama-555/

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