パリ→マルティニーク経由でカンヌへ! はぁ?

1994年のGW。私はカリブ海に浮かぶ島マルティニークに居た。

宿泊先は今は無きル・メリディアン・ホテル。プライベートビーチもあるリゾートホテルでは、カップルが海を眺めながら愛を語らい、ファミリーは子供を海で遊ばせながら、大人はビーチに寝そべって日焼けを楽しんでいた。たった一人滞在しているのは私くらい。完全に場違い。あまりにも手持ち無沙汰なのでカヌーに乗ったら、近くを通った観光船の客たちが、一切にカメラを向けた。カリブの海でカヌーに乗る東洋人……珍獣かいっ!

予期せぬ旅だった。

上司からカンヌ国際映画祭取材を命じられた。映画記者たるもの、これほど名誉なことはない。しかも入社3年目。東京出向になってからわずか2ヶ月のことだ。

ただし、条件があった。会社が見つけてきたタイアップ先は、当時日本に就航していたAOMフランス航空。ついては先方の希望で、カンヌに行く前に同じフランス領のマルティニークへ飛び、旅行記を書いて欲しいという。

というわけで旅程は、成田→パリ→マルティニーク→パリ→ニース→カンヌ→ニース→パリ→成田。

軽く地球を1周。しかも、AOMフランス航空のパリー成田線は週3回ほどなので、往復ともパリでの2、3日のトランジットも必要だった。結果、実に25日間の旅。ほぼ丸々1ヶ月間、会社を留守にするわけだ。

そこには恐らく、上司の策略があった。一線級の記者が不在となったら業務に支障が出てしまう。そこで暇そうな……もとい、この機会に新人を鍛えようと旅に出したのだ。バブルはすでに崩壊していたけど、なんと優雅な時代だったことか。やっほーい!

 堂々と会社のお墨付きをいただいたので、スーツケース に水着を詰めて出張だ。とはいえ、マルティーニに関する知識はほぼゼロ。地図で見たらキューバの上に方にちょこんとある小さな島ってくらい。間違いなく、美味いラム酒はあるでしょう。それだけで十分かな。

 実際、フランス人にとっては、東京からちょっと熱海へ行くような感覚なのか。パリ・オルリー空港からのフライトには、ペットの犬や猫を連れたリゾート客ばかり。そこに日本で言えば小学生ぐらいの集団も混じっていた。彼らにとってマルティニークは、フランスの英雄ナポレオンの初代妻ジョセフィーヌの出身地として知られており、学習旅行に行くほどの特別な場所らしい。失礼しました。

 そうして到着した地球の裏側。同地で私は、己の性質をより深く知るのでありました。


中山治美の”世界中でかき捨てた恥を回収す”

映画ジャーナリストの中山治美です。 1991年に初の海外旅行でケニアを旅して以来、仕事やプライベートで随分とあちこち旅してきました。 でも齢50歳を超えて体力的に限界が……。 そろそろ終活⁉︎と思い、 記録に残すことにしました。 2024年4月からは下記で更新。 https://ameblo.jp/haruminakayama-555/

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