”勝手に”「カンヌ 監督週間 in Tokio」開催記念④日本と海外の短編の違いについて

                        平井敦士監督『ゆ』 ©︎ MLD FILMS


 アジア初開催となった「カンヌ 監督週間 in Tokio」が12月21日に閉幕しました。

 その中で注目のイベントが。2023年の監督週間に唯一の日本映画として上映された平井敦士監督『ゆ』(2023)、同じく平井監督の短編で第73回ロカルノ国際映画祭短編コンペティション部門(Pardi di domani=”明日の豹たち”の意味)に選出された『フレネルの光』(2020)、さらにサンセバスチャン国際映画祭の挑戦的な作品を集めたサバルテギ=タバカレラ部門に選ばれた深田隆之監督『ナナメのろうか』(2022)の上映と両監督のトークイベントです。

                   

                 平井敦士監督と深田隆之監督


 いずれも、日本映画がなかなか選ばれない国際映画祭の短編部門を賑わせている作品です。お二人の経歴や映画祭までの道のりなどは下記の記事を参照に。

⚫️「カンヌ 監督週間 in Tokio」特別企画――フランスと共同製作で映画を作る平井敦士監督のカンヌまでの軌跡とその後

⚫️野心的で大胆な新鋭監督を応援!フランス・ベルフォール国際映画祭

⚫️『ナナメのろうか』深田隆之監督インタビュー

⚫️2時間分の満足感がある44分間のモノクロ映画映画『ナナメのろうか』深田隆之監督インタビュー花夢on MATERIAL Vol.148

 今回の「カンヌ 監督週間 in Tokio」の開催は、近年カンヌ国際映画祭が力を入れている映画祭期間以外の広報活動並び現地の映画人との交流、さらに世界各国でアート系フィルムが苦境を強いられている中、上映の機会を作ってあわよくば現地の配給を見つけられればという”親心”だと思うのですが、日本側からすれば国際映画祭に選ばれる作品とは?を知る良い機会。それを最も実感できたのが、この短編3本だったと思います。

 そもそも日本と海外では、短編に対する概念が異なるように思います。長編の圧縮版といいますか短い中で物語を完成させている日本作品に対して、海外では長編映画を作るためのプロット。例えば、映画『37セカンズ』で長編デビューし、アメリカを拠点に活動しているHIKARI監督は、チャンスを掴むべく短編を積極的に制作していました。

 下記は、HIKARI監督がカンヌの短編のショーケース「ショート・フィルム・コーナー」に参加した際のインタビュー記事です。

⚫️目指すはアカデミー賞! アメリカで活動する新鋭日本人監督の作品がカンヌでお披露目

 HIKARI監督の長編版『TSUYAKO』はまだ実現していないようですが、実際に短編から長編にステップアップしてアカデミー賞にノミネートされた作品も多いです。

  ・ロドリゴ・ソロゴイェン監督『おもかげ』

  ・ガイ・ナティーブ監督『SKIN スキン』

 短編で描かれているその先を見たいと思わせる作品。かつ短編を実験の場と捉え、視覚的にもチャレンジングな取り組みをしている作品に、選ぶ方も心奪われていることが見て取れます。


 今回上映された平井監督と深田監督の作品は、決して長編を目指して作ったワケではないのですが、その先を見たいと思わせるのはもちろん、見ている者のイマジネーションを刺激するのです。

 平井監督の2作はいずれも故郷・富山が舞台。『フレネルの光』は帰省した主人公が思い出の場所や人と触れ合って亡き父親を、『ゆ』は亡き母親の人生を噛み締めます。

 深田監督の『ナナメのろうか』はリノベーションが決まった祖母の家を姉妹が片付けながら、過去と現在を行ったり来たりする物語です。

 奇遇にも、実際に監督たちにとってゆかりのあるリアルな場所がロケ地で、主人公たちがそこで過去に向き合うことで今の自分の心を知るという内容が共通しているのですが、さらにもう一つ。両親や祖母といった映画には登場していない人物の人柄や人生=フレームの外にある世界をも想像させる内容なのです。

 個人的に深田監督のことは、別の視点で注目しています。前作の『ある惑星の散文』(2018)しかり、女性の描き方が西川美和監督やタナダユキ監督に負けず劣らずのシビア。ふだんは非常に物腰も柔らかく、こども映画教室では優しい講師のお兄さんであり、サンセバスチャン国際映画祭期間中には、久保建英が所属するレアル・ソシエダの試合を一緒に見に行ってくれたほど遊び心もある方なのですが。



 そんな深田監督が脚本も手がけた『ナナメのろうか』で毎回、シビれるシーンがあります。シングルでこれから子供を産もうとしている妹は、家族がその選択を歓迎していないことに不満を抱いています。特に結婚をして、夫もいて、ちゃんと順番を踏んでから子供を産んだという姉の言動が、チクチクと胸に刺さるのです。そこで妹が姉に次の言葉を放ちます。

 「全部持ってなきゃ産んじゃいけないわけ!?」。

 キャー! 一撃。

 そうですよ、入籍してようが、夫がいようがいまいが、産む権利は女性にあるのだから。このセリフを書けるとは。深田監督、恐るべし。

 『ナナメのろうか』は2人芝居にしても面白そうだし、なんならジェンダー問題をテーマにしたドラマの脚本を深田監督に依頼したらバンバン才能を発揮しそう。

 関係者の皆さん、ここに逸材がいますよ。

  深田隆之監督『ナナメのろうか』©TAKAYUKI FUKATA ALL RIGHTS RESERVED 

 


 

中山治美の”世界中でかき捨てた恥を回収す”

映画ジャーナリストの中山治美です。 1991年に初の海外旅行でケニアを旅して以来、仕事やプライベートで随分とあちこち旅してきました。 でも齢50歳を超えて体力的に限界が……。 そろそろ終活⁉︎と思い、 記録に残すことにしました。 2024年4月からは下記で更新。 https://ameblo.jp/haruminakayama-555/

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